『よふかしのうた』の主人公コウは不眠症の中学生ですが、ヴァンパイアは彼に本当の意味での夜ふかしの仕方を教えてくれるのでしょうか?
自分の意思でか、あるいは睡眠障害によってか、暗く静かな時間をただ眠って過ごすよりも、夜がもたらす充実感を味わって過ごす人は少なくありません。
そんな夜型人間にぴったりなのが、2022年夏の必見アニメの一つ、『よふかしのうた』です。
このアニメは、『僕のヒーローアカデミア』のトガヒミコに似た快活なヴァンパイアの少女が主人公なだけでなく、不眠症の中学生というユニークな男性主人公も登場します。
ラブコメといえば、晴れやかで明るく華やかなものが多いが、『よふかしのうた』の舞台はあくまでも日没後です。主人公は日々の生活に嫌気がさしている不眠症の中学生です。。
不眠症の彼は、学校にも行かず、夜な夜な歩き回っています。ある日、コウはピンクの髪をした不思議な女性に出会いますが、その彼女は血を吸わせれば、もっと楽しい気分を経験させてやると約束し、彼の首筋に噛みつきます。
そして、コウは牙を持つ新しい友人の助けを借りて、人生を最大限に楽しむための旅を始めます。
ラブコメでは、(人生、生活等に)幻滅してしまった男性主人公は珍しくありませんが、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の八幡のような社会からはみ出した主人公とは一味違う、不眠症で夜を孤独にさまよう主人公を登場させることで、新たな社会的逸脱者を表現しようとしています。
第1話のコウの登場シーンでは、真夜中に初めて実家のアパートを抜け出す彼の姿を描いています。
コウは反抗的なエネルギーに満ちているわけでもなく、落ち込んでいるわけでもなく、10代にありがちな不安に苛まれているわけでもありません。
不眠症の原因となった社会的孤立と退屈を語る彼の顔には、たしかに困ったような微笑みが浮かんでいますが、一方で彼は安心感と居場所を見つけたようにも見えます。公園でブランコに乗り、久しぶりに「楽しい!」と叫びます。不眠の中で、コウは夜の充実感を少しずつ受け入れ始めているのです。
吸血鬼という架空の生き物は様々に創造的に使われてきましが、『よふかしのうた』のペアは享楽を求める夜の生物と、睡眠障害に悩まされる人間との組み合わせということで、これはしばしば何らかの欠乏や不満に関連付けられるものです。
コウとナズナの最初の出会いは、コウが不眠症に効くのではと自動販売機でアルコールを買おうとするところをナズナに捕らえられるところから始まります。ナズナはコウをからかった後、彼が眠れないことに気づき、眠れない人の多くは一日に満足していないことが原因であると説明します。
彼女はコウに心の抑制を開放するように促しますが、これは視聴者がコウの成長を期待する舞台を用意するのと同時に、コウの満足を満たすのを導くのはナズナであることを示唆しています。
ナズナは、コウの不眠症を解決するために、人間中心の感動的な解決策を提供するだけではありません。彼女が吸血鬼であることを知ったコウは、自分も吸血鬼になりたいと言い出します。しかし、コウは決して何らかの力を求めているではないし、彼自身、暴力的な性格でも血に飢えているわけでもありません。
ただ圧倒的な虚無感と不眠に翻弄されるコウは、吸血鬼であるナズナのような充足感と満足感を求めているだけなのです。吸血鬼になれば、退屈な日常から抜け出し、夜の闇に真の居心地の良さを見出すことができるとコウは考えているのかもしれません。
しかし、ナズナの説明によると、コウが吸血鬼になるためには、彼女と恋に落ちなければならないそうで、ここで、このアニメの吸血鬼性と不眠性という2つの要素に、また新たな興味深い側面が加わる事になりました。
『よふかしのうた』は不眠症の男性が主人公で、夜行性の吸血鬼が絡むラブコメディーに仕上がっていますが、このユニークな主人公を作品が今後どう扱い、不眠症の根源や影響をどう探るのか、ファンにとっては興味深いところです。
第1話にあるように、コウは吸血鬼になるために、ナズナと恋に落ちる事さえ厭わず、必要なことは全てしようと努力するでしょうが、コウが最終的に吸血鬼になるのか、それとも人間としての満足感を得るのか、ファンはこのラブコメを最期まで見なければなりません。