バレーボールアニメは数十年にわたり数多く発表されていますが、中でも大人気の『ハイキュー!!』は群を抜いています。その理由を紹介しましょう。
バレーボールをテーマにしたアニメやマンガは数多くありますが、その多くは古舘 春一(ふるだて はるいち)氏の『ハイキュー!!』には到底及びません。
『ハイキュー!!』は、競合他作品とは一線を画す方式を採用しているようです。他のバレーボール作品と比べて、この特別な作品がこれほどまでに人気を博している理由は何なのでしょうか?
『ハイキュー!!』のインパクトを直接見る前に、それ以前に登場したバレーボールをテーマにしたアニメやマンガを、一歩引いた状態で見てみることが重要です。それらの作品を通してどんなインスピレーションが得られるでしょうか。
オリンピックの影響で人気が高まった女子バレーボールのアニメ・マンガ
『ハイキュー!!』が登場するかなり前、女子バレーボールを題材にした作品は、1964年のオリンピックで日本女子バレーボールチームが金メダルを獲得したことで、1970年代から80年代にかけて人気を博しました。
日本女子バレーボールチームは、1964年のオリンピックで金メダル、1968年と1972年のオリンピックで銀メダル、1976年のオリンピックで再び金メダルを獲得したのです。
浦野 千賀子(うらの ちかこ)氏原作のバレーボールマンガ『アタックNo.1』は、1964年の歴史的オリンピックをモチーフに作られ、後に初の少女向け女性スポーツアニメ(1969〜1971年)になりました。
これは、バレーボール日本代表を夢見る少女、鮎原 こずえ(あゆはら こずえ)の物語です。彼女は一歩一歩目標を達成していきますが、やがてスポーツ選手としての階段を上がれば上がるほど、より多くのプレッシャーと大きな期待を乗り越えなければならないことを知ることになります。
また、キャラクターデザイン、牧村 ジュン(まきむら じゅん)氏と原案、小泉 志津男(こいずみ しずお)氏の『アタッカーYOU!』(1984〜1985年)も特筆すべきシリーズです。田舎から東京に引っ越してきた主人公の葉月 優(はずき ゆう)は、ジャンプ力に優れ、女子バレーボール日本代表チームに入ることを夢見ます。
しかし、彼女は未経験のため氷川中学校のバレーボール部になかなかなじめません。理解の無い父や鬼コーチ、同じバレーボール部員の早瀬 奈美(はやせ なみ)とのライバル関係など、様々な問題を乗り越えていきます。
他のバレーボール作品も『アタックNo.1』と同じ方式をとっており、オリジナルアニメの『あしたへアタック!』(1977)、『紅色HERO』(べにいろヒーロー)(2003-2011)、『少女ファイト』 (2005)、などがあります。
これらの作品に登場する女性主人公は、それぞれ挑戦し乗り越えなければならない何かを持っています。彼女たちはバレーボールチームをかつての栄光のために再建するか、自分がチームに属していることを証明しなければならないのです。
これらの物語は、スポーツそのものよりも、コートの内外での苦難や葛藤を克服していく選手個人の姿に主眼が置かれています。個人的なドラマに焦点を当てたのは、少女や女性という対象読者、視聴者のためかもしれません。
スポーツを題材にした少女作品と言っても、スポーツの試合そのものは置いといて、むしろ友人や家族、恋人との関係を深めることに関心があるようです。
男子バレーボールアニメ『2.43 清陰高校男子バレー部』(にーてんよんさん せいいんこうこうだんしバレーぶ)は、競争と個人的なドラマのバランスが取れている
このような個人ドラマへのこだわりは、女子バレーボールだけではありません。男子バレーボール作品『2.43 清陰高校男子バレー部』にもあります。才能あるセッター灰島 公誓(はいじま きみちか)は、バレーボールでのとある悲劇をきっかけに、東京から幼い頃に住んでいた福井に帰ってきました。
そこで、幼なじみの黒羽 祐仁(くろば ゆに)と再会し、紋代中学男子バレーボール部を再スタートさせます。しかし、県大会に出場した黒羽はプレッシャーに負けてしまい、チームはバラバラになり、大会に敗退してしまいます。そして今、2人は雪辱を晴らすべく、清陰高校バレーボール部に入部します。
『2.43』では、女子バレーボール作品とは異なり、ファンがスポーツを通して楽しんでいる競争の重要性を強調することで、違った路線を歩んでいます。その一方で、個人の葛藤や友情の再構築を前面に押し出したストーリーは依然、健在です。バレーボールという競技における競争原理が、灰島と黒羽の人格形成の原動力になっているからです。
『2.43』の中心テーマは、自己成長と友情の重要性であり、視聴者は、バレーボール選手として成長する2人が常に励まし合い、支え合う姿を通して、その重要性を理解していくようになります。
『ハイキュー!!』の勝ちへのこだわりとその為の犠牲的精神のスリルは、すべてに勝利する
これらの古いアニメにはもちろん良さもありますが、それでも『ハイキュー!!』が究極のバレーボール作品である理由は何でしょうか? その答えは、キャラクター成長と競技のバランスの取り方にあります。他の作品では、バレーボールをメインに据えるのではなく、バレーボールは主人公たちのドラマやキャラクターを成長させるための道具として位置づけられています。
これに対し、『ハイキュー!!』では、烏野高校男子バレーボール部が全国大会で優勝することがメインプロットとなっています。そのため、すべてのエピソードにスリリングなアクションとアドレナリン全開の場面が盛り込まれ、競争心と勝利への渇望がリアルに描かれています。
『ハイキュー!!』におけるキャラクターの成長は、烏野バレーボールチームの各メンバーが、チームの勝利のために犠牲を払うことを厭わないところに表れています。例えば、菅原 孝支(すがわら こうし)は元々チームの正セッターでしたが、その座を1年生の天才選手、影山 飛雄(かげやま とびお)に進んで譲りました。
さらに、主人公の日向 翔陽(ひなた しょうよう)はバレーボール選手としては低身長ですが、ジャンプやサーブなど他の技術を磨くことでカバーしています。
たとえ不利な状況であっても、多くの対戦相手が自分を見下したとしても、日向は自分を信じています。どのキャラクターも、個人的な苦悩を抱え、それでもチームのために犠牲を払い、その事が彼らを成長させます。このように、視聴者は個人の犠牲とチームの仲間意識に感心し、感動を覚えるのです。
バレーボールアニメで価値のあるものは他にもありますが、それでも『ハイキュー!!』は他作品と一線を画しています。『ハイキュー!!』での試合の興奮と、個人とチームの犠牲が、この作品を本当に忘れがたい、象徴的なスポーツ作品にしているのです。