これは、脚本兼監督の宮崎 駿氏が『となりのトトロ』を書き始めたときに思い描いていたイメージです。
「トトロ? あなた、トトロっていうのね!」
宮崎 駿氏は、彼が脚本と監督を手がけた比類なきアニメで世界中に知られています。
『となりのトトロ』は、日本の田舎を舞台にしたファンタジーな子供アニメです。
伝統的な日本家屋、親切な隣人たち、美しい緑の野原の中の曲がりくねった道、小さな神社や石灯籠…『となりのトトロ』はこれらすべてを見事に美しく捉えています。
宮崎監督は、1960年代に妻と暮らした埼玉県の所沢を再現したかったようです。映画は、日本の田舎に新しく引っ越した家でのサツキとメイの姉妹の生活を描いています。
サツキとメイ
姉のサツキはおそらく10歳に満たず、妹のメイは4歳くらいに見えます。新居への引っ越しを控えた2人の表情は明るいです。
同じ監督による『千と千尋の神隠し』では、引っ越しの際、女の子がすねたような表情を見せるのとは対照的ですね。
最初の方のシーンでは、彼女たちは引っ越し先の家が老朽化しているのを見て、くすくす笑ったり叫んだりします。
「お化け屋敷みたい!」と叫びますが、別に彼女たちの気分が、落ち込んでいるわけではありません。
しかし、部屋に入ると、黒いフワフワした生き物が何匹も隠れるのを見て、彼女たちは静かになります。
後で父親が、彼女たちが見たのは「まっくろくろすけ」だろうと言います。その名前は彼女たちがよく知っている絵本からとったようで、姉妹はそれを歌にしてまた叫び始めます。
2人は、特に怖がる様子もなく、冒険心旺盛です。
彼女たちの父親は、姉妹の幽霊やお化けの話にうまく合わせる姿がたびたび描かれており、お化け屋敷に住むのが夢だったと真顔で話したりします。
当初、私は彼女らの母親が亡くなっているのかなと思っていました。しかし後に、母親は病気で近くの病院に入院していることがわかります。
気丈に振る舞うサツキ
『千と千尋の神隠し』では、千尋が年長者にきちんと挨拶しないことを叱責されますが、『となりのトトロ』ではサツキがとても礼儀正しいことが示されています。
地元のおばあちゃんに自分とメイを紹介し、父親を寝かせ、学校に行く前にみんなのために料理を作ります。
また、妹の髪をとかすこともあり、サツキはまだ子供であるにもかかわらず、メイの母親としての役割を果たしています。
後に、母親が病院を(退院の予定だったのに)退院しないという電報を受け取ったとき、サツキはついに心が折れてしまい、子供の姿を見せます。
日本語には自分が気丈である事を周りに誇示する、「つよがる(tsuyogaru)」という言葉があります。
映画の最初のシーンでのはしゃぎ過ぎとも見える彼女の甲高い声を思い浮かべると、サツキは強がることで自分の(母親が病気で不在な)状況に対処しようとしていただけなのだと気づきます。
父親が仕事で不在のとき、サツキは自分自身と妹の面倒を見なければなりませんでした。
妹がさまざまな状況にどう反応すればいいのかの手がかりを、自分に求めていることを知っているサツキは、臆病になったり悲しんだりするわけにはいかないのでした。
というのも、メイはしばしばサツキの言うことを同じように繰り返すことが多いから(自分が沈んだ姿を見せるとメイもそうなってしまうから)です。
関連記事:スタジオジブリの『トトロ』は小さな子供向けアニメの第一作目に最適
トトロとススワタリ
トトロはクスノキに住む、丸々と太った大きくて陽気な生き物です。家の近くの茂みに空いた穴から、トトロの住む場所にまっすぐたどり着くことが出来ます。
最初にメイが穴を滑り落ちるシーンが映し出されたとき、私は『不思議の国のアリス』を少し思い出しました。しかし、穴はいつもそこにあるわけではなく、その点は魔法的です。
女の子たちの父親は、トトロは誰にでも簡単に姿を見せるわけではないと言います。
トトロはボタン鼻で、おどけたような笑みを浮かべています。メイは寝ぼけまなこの、この生物が発したうめき声が「トトロ」と聞こえたため、それが彼の名前だと解釈しました。
トトロはしゃべりませんが、女の子たちの言うことは、どうやら理解しているようです。
「妖怪」や「空き家に住む生き物」の話はたくさん出てきますが、その一部は「夢」として説明されます。
お父さんが黒くてふわふわした生き物を、まっくろくろすけと説明するのに対して、家の管理を手伝っているおばあさんはそれをススワタリと呼びます。
彼女はお父さんに、彼らは怖い生き物ではないし、良い人に迷惑をかけることもないと言います。
ススワタリが登場するのはこの映画が初めてです。ススワタリは、『千と千尋の神隠し』でも出てきました。
娘たちがトトロやお化けの話をしても、父親や母親が、(そんなものは存在しないと)訂正したりする場面はありません。
監督はこの部分を意図的に曖昧にしているのだと、私は見ています。「魔法」や 「善良で親切な霊」は、それを信じる人にとっては存在するのだろうという事です。
少女たちの両親は、間違いなくそう信じているようです。
『となりのトトロ』に登場するサツキとメイの家は、2005年に愛知県で開催された愛・地球博のために再現され、現在も万博記念公園の人気アトラクションとなっています。
1950年代の日本の田舎
家は伝統的な日本家屋で、襖があり、伝統的な風呂があります。テレビも携帯電話も洗濯機すらない世界です。洗濯物は固い台の上に石鹸と水と一緒に置かれ、女の子たちはそれを踏んで汚れを落とします。
私も子供の頃、洗濯屋さんや母がこの方法で洗濯しているのを見たことがあります。
井戸ポンプがあり、彼女たちはそれを使うことを知っています。キッチンの流しの近くにも井戸ポンプがあります。現在このような光景が日本のどこかで見られるかどうかは、わかりません。
近所にはあまり家がなく(田舎の農村は家と家の距離が遠い)、みんな自転車か徒歩で通勤しています。バスは通っているものの、本数は少ないです。
電話を持っている家は、近所に1軒しかないようです。緊急の際の伝言には電報を打たなければならなかった時代なのです。
暖かくほのぼのとした物語:これぞ宮崎映画の真髄
『となりのトトロ』は、子供たちが楽しめること間違いなしの気持ちのいい映画です。1950年代の日本の田舎は美しかったに違いありません。世界のどの国もそうであるように、日本も都市化によって森林伐採が進みました。
しかし、この映画の成功によって、埼玉に自然保護区「トトロの森」が作られました。今では人気の観光スポットとなっています。
日本に馴染みのない人にとっては、日本の「お弁当」、神社参拝、家族風呂など、『となりのトトロ』から学ぶことは多いでしょう。
音楽も心地よく、主題歌の「さんぽ」は今でも日本の子供たちに人気があります。この映画が公開されたのは30年以上も前のことですが、今でもトトロのグッズは売られています。