高橋 留美子(たかはし るみこ)氏の代表作である『うる星やつら』が、高橋氏の持ち味を生かしつつ、ユーモアも新たに、アニメ化されました。
ーー 注意 ーー
以下、HIDIVEで配信中の『うる星やつら』1期第1話「かけめぐる青春/絶体絶命」のネタバレを含みます。
高橋 留美子氏は、『らんま1/2』や『犬夜叉』など、世界中に多くのファンを持つ大ヒット作品を生み出した、世界的に有名なマンガ家です。
その他にも、ラブコメ『めぞん一刻』、ダークアンソロジー『人魚シリーズ』、最近のヒット作では『境界のRINNE』『MAO』など、超常現象を扱った作品を数多く発表しています。
40年の間に高橋氏が築いた豊かな遺産を考えれば、日本のアニメスタジオが彼女の最も成功したヒット作を活用する新しい方法を見つけるのは当然でしょう。
そのひとつが、1970年代後半から1980年代にかけての高橋氏の最初のヒット作『うる星やつら』のリブートアニメです。
この新アニメは、このクラシックなマンガ作品を素晴らしいビジュアル、アニメーション、音楽、現代の声優によって活性化させるだけでなく、高橋氏の得意な軽快なユーモアはそのままに、重要な部分を現代の視聴者に向けてアップデートしているのです。
『うる星やつら』、セルフパロディで勝負
『うる星やつら』はセルフパロディが売りの作品であり、それは第1話の前半「かけめぐる青春」で明らかになります。
ここでは、ユーモラスな宇宙人の侵略から始まり、オニ星から来た地球外生命体の族長が、ただ気が向いたからという理由で地球を征服することを決めます。
角や尖った歯や耳など、その星の名前の由来に似た姿をしているだけでなく、お茶目な性格の彼らは、日本の伝説に登場する鬼のような振る舞いをしています。
地球に到着した瞬間から、宇宙人一家のユーモラスな特徴が全開になります。宇宙人の族長は、自分の娯楽のために、地球人に鬼ごっこで自由を勝ち取るチャンスを与えようと決めます。
そこで彼は、コンピュータのアルゴリズムを使って地球人をランダムに選び、10代の自分の娘、ラムと対戦させます。地球側が勝つ条件は、選ばれた人間がラムの頭の角に触ることなのですが、ラムは飛行能力を持っており、人間が失敗することが予想されます。
『うる星やつら』、現代人に向けてユーモアをアップデート
第1話の前半では、鬼の星から来た宇宙人の家族に加えて、本作の主人公である諸星 あたる(もろぼし あたる)が紹介されています。あたるの家族、ガールフレンドの三宅 しのぶ(みやけ しのぶ)、そしてチェリーと呼ばれる奇妙な老僧も同様に紹介されています。
『うる星やつら』は、あたるが13日の金曜日に生まれた非常に不運な10代の少年であり、彼自身と彼の両親を含む周りの人々に不幸をもたらすという事から、そのユーモアのほとんどを生み出しています。また、あたるは、高橋作品の多くの男性キャラクターと同様、非常に浮気性な10代の少年です。
興味深いのは、あたるが原作から一新された点です。原作のあたるは、自分の好みに合う女性を片っ端から追いかけていくような男子として描かれていましたが、新アニメではそのような描写は少なくなっています。
その代わり、あたるは行き当たりばったりに女性を口説く少年として描かれ、これはこれでしのぶを困らせます。更に、あたるがラムと鬼ごっこをする際、重要なシーンが変更されています。
原作では、あたるはラムのビキニのトップをわざと脱がせる事で、勝利に至りました。しかし、新アニメでは、あたるがラムを捕まえた時に、ラムのトップは偶然に脱がされるということに変更されました。
『うる星やつら』、高橋氏のお得意型を使う
『うる星やつら』では、主人公をイジッって笑いをとるユーモアの他に、第1話では高橋氏の最も悪名高い得意技、「三角関係」が紹介されました。この三角関係は、第1話の後半、「絶体絶命」と題された部分で展開されます。
前述したように、あたるは幼なじみのしのぶに恋をしています。ラムとの鬼ごっこで勝利して宇宙人の侵略を防ぐことが世間から期待されているあたるに対して、最終日の10日、しのぶは結婚を約束してあたるの勝利へのモチベーションを高めます。これが功を奏し、あたるはラムに勝つことができます。
ですが、そこには思わぬ結末が待っていました。鬼ごっこの最中、あたるはモチベーションを維持し集中するため「結婚」という言葉を何度も大きな声で口に出していました。しのぶと結婚する気満々で、ついにラムを捕らえ、勝利します。
しかし、ゲームが終わると、「結婚」という言葉を連発していたあたるを、ラムは自分へのプロポーズだと勘違いしていまいます。そしてラムは、困惑する父親をしりめに、結婚を受け入れてしまいます。このとき、ラムはあたるにあの有名な呼び名をつけました。「ダーリン」のデビューです。
こうしてラムは何がどうなろうとあたるとの結婚を決意し、しのぶには恋のライバルができ、ラムは地球に留まることになりました。第1話のラスト近くに起きた出来事にあたるの両親は、納得がいかないようです。というのも、ラムがしのぶに嫉妬したことで生じた物的損害に対する弁償を日本政府から請求されたからです。
かくして『うる星やつら』は、諸星家の生活が一変したところで第1話を終えていますが、まずは好調なスタートを切ったと言って良いでしょう。このアニメは、原作を現代風に上手いことアレンジしているだけでなく、原作を大ヒットさせた高橋氏の魅力も十分に生かしているからです。